大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)4953号 判決 1983年5月11日
原告 小森達雄
右訴訟代理人弁護士 佐藤禎
同 西村義明
被告 関西丸大食品株式会社
右代表者代表取締役 羽賀孝
右訴訟代理人弁護士 佐々木敬勝
同 西村元昭
同 玉城辰夫
主文
一、原告の請求をいずれも棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求ある裁判
一、請求の趣旨
1.被告の昭和五七年五月二八日開催の定時株主総会における、
(一)羽賀孝を取締役に選任する旨の決議は無効であることを確認する。
(二)河内徳次、藤田政光、百済徳男、大田康弘、宮尾光寿、戸田武彦を取締役に、橋本俊一を監査役にそれぞれ選任する旨の決議は取消す。
2.被告は原告に対し、昭和五七年五月二二日から被告において新たに三名以上の取締役を選任するまでの間、一か月あたり金八〇万円の割合による金員を支払え。
3.訴訟費用は被告の負担とする。
二、請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二、当事者の主張
一、原告
1.被告は、魚肉、畜肉、ハム及びソーセージ並びに練製品の製造及び販売を目的とする株式会社であり、その発行済株式総数二万株は総て訴外丸大食品株式会社(以下、丸大食品という)が所有している。
2.原告は、被告の取締役であった。その任期は昭和五七年五月二一日までであった。
3.被告は、昭和五七年五月二八日、株主である丸大食品代表取締役羽賀孝出席のもとに定時株主総会を開催し、満場一致で、請求の趣旨1掲記の各役員選任決議をした。
4.ところが、
(一)丸大食品は、被告と目的を同じくする会社であり、被告と競業関係にある。
(二)商法は、取締役はその会社の業務に専念し(昭和五六年法律第七四号〔昭和五七年一〇月一日施行〕による改正前の同法二五四条ノ二)、競業関係にある他の会社の業務に関与してはならない(同法二六四条一項)旨規定している。
(三)従って、被告の前記決議のうち、羽賀孝を取締役に選任する旨の決議は、法律に違反し、無効である。
5.更に、
(一)本件株主総会開催当日、これに先立ち、その決議事項を定める取締役会が開かれた。
(二)原告に対する右取締役会招集通知書は、右開催日の前日である同月二七日、原告に交付された。これは、原告が二八日に差しつかえのあることを察知して、その出席の機会を奪うため、急ぎ開催日を定めたからである。
(三)被告の定款によれば、取締役会の招集は、会日の三日前までに発するものと規定されている。
(四)右のとおり、右取締役会は不当な目的のもとに瑕疵ある手続で開かれたのであるから、その取締役会決議は無効であり、この無効な決議に基いて招集された本件株主総会における前記決議のうち、羽賀孝を除くその余の役員選任決議は取消されるべきである。
6.損害
(一)前記のとおり、本件株主総会における各役員選任決議は無効若しくは取消されるべきであり、原告はいまだ被告の取締役たる地位にある。
(二)原告は、昭和五七年五月分まで、取締役報酬として月額金八〇万円の支給を受けていた。昭和五七年五月二二日以降はその支払を受けていない。
(三)従って、被告の違法な株主総会決議により、原告は右報酬額相当の損害を受けている。
7.よって、請求の趣旨記載の判決を求める。
二、被告
1.原告主張1の事実は認める。
2.同2の事実は認める。但し、原告の任期は被告の定款一七条により、本件株主総会が終了した同月二八日までであった。
3.同3の事実は認める。
4.同4の事実中、丸大食品が被告と目的を同じくする会社であることは認めるが、その余は争う。
5.同5の事実中、本件株主総会開催当日、これに先立ち、原告主張の取締役会が開かれたこと、右取締役会招集通知書の原告に交付されたのがその前日である二八日であったことは認めるが、その余は争う。
被告の定款によれば、取締役会の招集通知は、会日の三日前までに発するものとし、緊急のときはこれを短縮することができると規定されている。
更に、被告は丸大食品が全株式を有するいわゆる一人会社であり、一人会社においては、その一人の株主が出席すれば、招集の手続がなくても株主総会は有効に成立する。
6.同6の事実中、原告の取締役報酬は月額金八〇万円であったこと、昭和五七年五月分まで支払いずみであることは認めるが、その余は争う。
第三、証拠<省略>
理由
一、被告が魚肉、畜肉、ハム及びソーセージ並びに練製品の製造及び販売を目的とする株式会社であり、丸大食品と目的を同じくすること、被告の発行済株式総数二万株の総てを丸大食品が所有していること、原告が被告の取締役であったこと、被告が昭和五七年五月二八日、株主である丸大食品代表取締役羽賀孝出席のもとに定時株主総会を開催し、請求の趣旨1掲記の各役員選任決議をしたこと、右株主総会開催当日、これに先立ち、その決議事項を定める取締役会が開かれたこと、被告の定款では取締役会の招集通知は原則として会日の三日前までにすることと定められているが右取締役会開催通知書は同月二七日原告に交付されたことはいずれも当事者間に争いがない。
二、そこで、右株主総会の瑕疵について判断する。
1.被告が丸大食品と目的を同じくし、その株式を全て丸大食品によって保有されている会社であることは前述のとおりであるところ、<証拠>によると、被告は、もともと丸大食品が従来営んでいたハム、ソーセージの製造、畜肉加工等の生産部門を分離し、併せて外食産業部門への進出を図るために設立した会社であって、丸大食品の高槻工場、滋賀工場等を無償使用し、丸大食品より原料の支給を受けて同会社に製品を納入する業務を行ってきたものであること、被告の取締役は、原告を除いて全て丸大食品の取締役等を兼ねており、原告が被告の取締役の任期満了した後においてもその状態は異ならないことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右の事実に鑑みると、被告と丸大食品との間には実質上の利害対立のおそれがなく、丸大食品の取締役等が被告の取締役に選任されあるいは就任するについて昭和五六年法律第七四号による改正前の商法二六四条の適用を受けないものと解するのが相当である。
また、昭和五六年法律第七四号による改正前の商法二五四条の二、二六四条の規定は、昭和二五年法律第一六七号による商法の一部改正の経過等に鑑み、商法七四条、一四七条の法意とは異なって、株式会社の取締役が他の会社の取締役に選任されあるいは就任することを原則として禁止する趣旨のものでないと解するのが相当である。
従って、丸大食品の代表取締役である羽賀孝を被告の取締役に選任する株主総会決議が不適法であるとはいえない。
よって、その余の判断をするまでもなく、羽賀孝選任決議に関する原告主張は容認できず、右選任決議が無効であることの確認を求める請求は理由がない。
2.前記のとおり、原告に対する取締役会招集通知は被告の定款に違背して株主総会開催の前日交付されたので、本件株主総会開催を決めた取締役会の決議は一応瑕疵があるものといわなければならないが、被告は丸大食品が全株式を有している会社であって、その唯一の株主が本件株主総会に出席し適式に決議を成立させたものであるから、前記瑕疵は、本件株主総会決議の取消事由には当らない。
従って、原告の右株主総会決議取消請求は理由がない。
三、以上により、被告の昭和五七年五月二八日開催の株主総会決議は、無効若くは取消されるべき瑕疵があるものとはいえず、同決議により原告の後任の新役員が選任され、同日原告が被告の取締役を退任したものというべきである。
そうすると、その後の取締役たる地位があることを前提とする原告の損害賠償請求は、その余の判断をするまでもなく、理由がない。
四、結局、原告の請求はいずれも理由がないから、総て棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 道下徹 裁判官 鬼頭季郎 田中恭介)